FAIR原則とプロセスの重要性

研究開発業界は、ある用語や頭字語に熱中し、組織や一部の人々はそれを煽る傾向があるようです。FAIR(Findable=見つけられる、Accessible=アクセスできる、Interoperable=相互運用できる、Reusable=再利用できる)は、そのような頭字語の1つです。このFAIRはもっともな事なのですが、問題は、それを継続しなければならないということです。もう1つの問題は、FAIRデータにプロセスが含まれていないということが、半分も議論されていないというです。結局のところ、プロセスがデータを生み出しているのですが。

FAIR原則に則っていないデータとプロセスにおける科学の発展は、数多くの原因により限界にきています。この点に注目することは非常に重要です。なぜなら、それは技術的な問題ではなく、それよりもはるかに深いところに問題があるからです。データ不足の環境やデータ整合性の低さの根本的な原因は、文化的な問題にあります。これから私が申し上げることは、十中八九、一部の方々の感情を逆なでするでしょう。今日の科学は、いくつかの重大な問題を抱えています。それは、傲慢さ・無知・経済的圧力・同調圧力という問題です。これらが新規化合物/薬、治療法の発見といった最も複雑な業界と相まって、FAIR原則に則ったデータ・プロセスの推進を難しくしています。学界/教育機関に始まり、データ主導の研究開発組織に至るまで、誰もが変わらねばならない真のトランスフォーメーションが必要です。第一に、価値あるものとしてデータ・プロセスの再教育と再学習を行います。その上で、データが収集/キュレーション/管理されているか確認するために時間をかけます。そして、データを可能な限りいつでもどこでもモデル品質で再利用できるようにします。これは組織内の戦略と合意を要するものであり、他の組織が経験するのと同じように、変革をマネジメントするプログラムになります。この取り組みには、犠牲・責任・強力なリーダーシップも必要となります。

先ほど、これが技術的な問題ではないと申し上げましたが、技術の問題と言える面もあるのです。in silico技術によるアプローチは、その能力を最大限に発揮できずにいます。それは、in silicoメソッドがFAIR原則に則っていないため利用できないからです。我々は今、FAIR原則に基づくトランスフォーメーションを起こすべきであり、そのためには皆の協力が必要です。

通信・エンターテインメント・W3C(World Wide Web Consortium)・銀行・保険などの業界が、データとプロセスの基準を導入して成功を収めているように、これは達成不可能な目標ではありません。

4つの柱のうち、文化・データ・プロセスの3つに触れたところで、変化を実現する技術についてお話ししましょう。

研究室の科学者と最近お話をされたことはありますか?科学者は、ひどく忙しく、時間を慎重に調整しなければなりません。多くの場合、自分の役割にストレスを感じています。そのような科学者に対して一番すべきでないことは、直感的でない科学的ソフトウェア ソリューションを使わせて仕事をさせること。単純に、彼らの仕事を増やすべきではないのです。全ての科学者に必要なツールは、自分が何を行おうとしているか、何を、どのように行って、どのような結果が得られたかを記録し、最後に観察・結論をまとめられる実験ノートなのです。そしてこれが、FAIR原則に基づくデータ・プロセスの環境の土台となるのです。

電子実験ノート(ELN)は、変化の激しい研究開発の世界において、科学的方法をデータで保存するために存在しています。第1世代もしくはそれ以前のELNでは、IPの取得に重点が置かれたため、ユーザビリティとエンドユーザの実施可能性においては失敗していますが、これが出発点であったといえるでしょう。

ELNはあらゆる種類の研究開発企業に適用できます。ELNを展開するにせよ、しないにせよ、事実よりも多くの弁解が出てくるでしょう。学界・スタートアップ・小規模組織・科学分野・大規模研究開発組織には、手に余るほど多くの成功と失敗がこれまでにありました。教育機関は無料でELNを取得できますが、スタートアップは組織がまとまっていない、またはそのような印象を投資家や共同研究者に与えたりするだけでも多くの失敗につながるため、様々な理由から研究組織の一部ではELNは必要ないとしています。

2021年になり新しいELNは進化を遂げ、そのほとんどがクラウドに対応し、次世代のエクスペリエンスを推進するようになりました。ELNがFAIR原則を推進できるようにするためには、データ・プロセス環境が非常に重要です。この環境は、科学的なビジネスプロセスをデータに取り込むのに最適な環境ですので、皆様の実験をELNから実行することができるのです。このコンセプトは決して新しいものではなく、ラボ実行システムや最大手のエネルギー供給企業向けに構築された別のソリューションにまで何年も遡ります。しかし今日では、プロセスをデータに残してバージョン管理できる技術があります。なぜこれが重要なのでしょうか?それは、プロセスを強化/最適化し、調和させようとしている企業は、ELN以外のツールでビジネスプロセスのマッピングを行っていますが、実際にはELNこそがその保存場所であり、「機能的」または「実行できる」ビジネスプロセス マップになりうるからです。

今やELNは、コンテキスト化されたデータをキャプチャするだけではなく、実行可能なプロセスもデータに残せるようになり、この2つを合わせて全体像を示してくれます。なぜこれが重要なのか?それは、研究科学者が、FAIR原則に則ったデータ・プロセスを手に入れたからです。つまり、研究科学者はテクノロジーと知識を移動させ、あらゆる種類のデータをマイニングして他のデータと統合し、コンピュータを用いることを最優先するアプローチでデータを利用できるようになりました。これは、分野または皆様の組織で40%の効率向上を実現できることを意味し、市場投入にかかる時間を短縮して、人々の生活の質の向上につなげられるのです。

大規模組織は、多額のコストがかかる分、十分な見返りを期待できます。Price Waterhouse Cooper社と欧州連合は、欧州の研究開発組織は年間260億ユーロ以上のコストがかかると見積もっています。私達のこれまでのナレッジとデータラングリング等の観測レベルに基づいて独自の計算を行ったところ、コストはこれを上回るものの、大規模なバイオ医薬品企業がELNを適切に展開・適用した場合には、数億ユーロの投資収益率(ROI)を実現できると考えています。

組織でFAIR原則に準拠するために必要な変革は、データラングリングを減らし、コラボレーションを改善させ、コンピュータを用いることを最優先するアプローチを推進することが非常に重要であり、最終的にはこれらが研究開発コミュニティの大幅な効率化につながります。効率性の向上は、すべての人・生産者・消費者にとって、より良い製品・医薬品・治療法・生活の質に繋がっていくのです。

PerkinElmer Informatics Signals Research Suite™の詳細と、小規模な新興企業から大規模なグローバルバイオ医薬品企業までの様々なELNのお客様にこのスイートがどのように役立つかをご確認ください。

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ジョン コンウェイ(John Conway)

ジョン コンウェイ(John Conway)氏は、科学技術の大手コンサルティング会社である20/15 Visioneersの最高責任者であり、『What Makes a Great BioELN』という記事も執筆しています。この記事は、生化学向け電子実験ノートが、どのように効率を上げてより速やかに複雑な科学的問題の答えを導き出すのかについて調べている製薬・バイオテクノロジー・材料科学の企業にとっては、必読の記事となるでしょう。