乳がんの治療薬開発を加速する
医薬品開発のプロセスは困難で複雑です。1つの医薬品が開発パイプラインを通り抜けるまでに、10年以上かかることもあります。その一方で、新規化学物質(NCE)の研究開発コストの上昇は著しいものがあります。
計算化学による解析とケモインフォマティクス法を用いれば、がん治療薬開発の強化・促進が可能となり、迅速かつ効率的に、より安価で効果の高い新薬を患者様のお手元に届けられます。
今年の乳がん啓発月間では、私達は乳がんとその転移性疾患が及ぼす影響はあまりにも広範であるという認識を新たにしました。スーザン G コーメン財団によると、米国だけで、女性の8人に1人がその生涯のうちに乳がんと診断されるそうです。2022年には、米国内で44,000人近くが乳がんで死亡すると予想されています。

乳がんを対象とした新薬の開発
エストロゲン受容体を転移性乳がんの標的にするなど、乳がん治療薬のドラッグデザインの新たなアプローチができることで、乳がんの患者様を取り巻く状況は大きく変わっています。患者様のほぼ半数が3~5年で現行の治療法に対し薬剤耐性を獲得するため、ドラッグデザインの新たなアプローチの進化は極めて重要です。
正常なエストロゲン受容体機構が乳がんに乗っ取られると、がん増殖を制御できなくなります。エストロゲン受容体(ER)拮抗薬は、エストロゲン受容体に直接結合して、その活性化を抑制するため、がんの増殖も抑制されます。
乳がん治療に高い効果を示す治療薬タモキシフェンは、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)です。タモキシフェンは、エストロゲン受容体モジュレーターであるため、作動活性と拮抗活性の両方を備えています。
乳がん治療薬の研究開発目標の1つは、完全なエストロゲン受容体拮抗薬、すなわち受容体に結合してその活性を完全に抑制する医薬品を開発することです。フルベストラント(フェソロデックス)は、この新しいクラスの最初の医薬品(完全なER拮抗薬)です。フルベストラントは、選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)です。現行では、FDAが承認した唯一のSERDですが、薬物動態(PK)特性が高いとは言えません。
PerkinElmer Signalsプラットフォームと創薬
創薬の研究者は、がん治療法の研究を加速するインフォマティクスツールを必要としています。
PerkinElmer InformaticsのSignals Researchプラットフォームは、SERDなどの、エストロゲン受容体を標的にして転移性乳がんと闘うための医薬品の開発に重要な役割を果たします。

Signals Researchプラットフォームには、Signals Notebook™・Signals Vitro Vivo™・Signals Inventa™(Lead Discovery)が含まれます。これらは、単一のプラットフォームに組み込まれ、研究者に以下の情報を提供します。
- リード化合物の分子構造
- 化合物の物理特性データ
- 化合物のアッセイと分光分析の結果
- 動物試験
- タンパク質標的情報
- 配列データのデータビジュアライゼーションツール
TIBCO® Spotfire®アナリティクスは機能が強化され、結果の高度なデータ解析と迅速なグラフ表示が可能です。

PerkinElmer Informatics Signalsプラットフォームは、Make・Test・Decideワークフローを完全に統合し、地理的に離れた職場やCROともデータを共有できます。コラボレーションの強化・ワークフローの改善・ラボの自動化により、生産性とデータの透明性を向上できるため、より多くの情報に裏付けられた意思決定ができます。
Signals Inventaには、PerkinElmer Informaticsの革新的なSignals Data Factoryが搭載されています。Signals Data Factoryは、科学データの処理を統合して、効率的にデータを収集します。インタラクティブなアッセイの開発から自動化したハイスループットまで、あらゆる機器のローデータを統合でき、拡張性と一貫性の高いデータ解析が可能です。Signals Inventaを導入すれば、ADME(吸収・分布・代謝・排泄)試験・PK試験などのin vitro・in vivoデータすべてに対し完全なデータ解析フレームワークを利用できます。
乳がん治療薬の開発を促進し、より優れた候補薬をより迅速かつ効率的に識別できる、PerkinElmer Signalsプラットフォームの詳細についてご覧ください。
参照資料
Lu Y, Liu W. Selective estrogen receptor degraders (SERDs): a promising strategy for estrogen receptor positive endocrine-resistant breast cancer. J Med Chem. 2020;63(24):15094-15114. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33138369/
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レイチェル J. ビエンストック 博士(Rachelle J. Bienstock, Ph.D.)
Signals Notebook プロダクトマーケティング マネージャービエンストック博士は、Signals Notebook プロダクトマーケティング マネージャーとして、Revvity Signals Softwareチームに加わりました。Revvity Signals Softwareに入社する前は、学術機関・民間企業・政府機関で、計算化学・SBDD(構造情報に基づく薬物設計)・生体分子の分光学的研究を経験しました。University of Michigan Ann Arbor校で物理化学の博士号を取得しています。