既存薬再開発:革新的なツールで既存薬の潜在力を活用
研究者達は、昨今の新型コロナウイルスとの闘いの中で、安全性・有効性を担保したうえで早急に効果的な抗ウイルス薬を開発するという、一刻を争う難題に直面しました。この緊急事態を通して、既存薬再開発という強力な戦略に注目が集まる機会が増えました。
既存薬再開発とは、既存の承認薬の新たな適応を研究すること、または過去に研究された未承認薬の新たな適応に向けて開発を進めることです。
なかでも特筆すべき例は、Pfizer社のパキロビッド(ニルマトレルビルとリトナビルの2剤併用)です。ニルマトレルビルは、新型コロナウイルス感染症に対抗する目的に限定して開発されましたが、併用するリトナビルは元々HIVの治療を目的とした既存薬です。この手法は、変化し続ける世界的な公衆衛生上の危機に対抗する、効率的で費用対効果の高い解決策として、既存薬再開発の価値を際立たせています。
既存薬を再開発する理由は?
複数の総説によれば、新薬承認申請のうち上市に至るのは10%であるのに対し、再開発された医薬品の約30%が販売承認されたことが示されています。世界保健機関(WHO)は、2021年の報告書の中で既存薬再開発を「過小評価された持続可能なイノベーションの主役」と呼び、支持しています。
既存薬再開発(ドラッグリパーパシング)は、ドラッグリポジショニングやドラッグリプロファイリングとも呼ばれ、当初は別の適応症を目的に開発された医薬品に新たな適応を特定することを意味し、以下のような多くの利点があります。
- 高い効率性と費用対効果:再開発する医薬品の安全性・薬理学的プロファイルはすでに確立されており、医薬品開発の初期段階を省略できるため、時間とリソースの大幅な節約が可能です。
- 上市までの時間の短縮:既存の安全性プロファイルと過去の研究を活用できるため、規制当局の承認の期間を短縮し、治療薬を必要とする患者様へより迅速に届けられます。
- 広がる治療選択肢:既存薬再開発によって、現状では治療選択肢が限られている疾患に新たな治療をもたらす可能性があります。
このような理由から、既存薬再開発は、特に新型コロナウイルスのパンデミックのような時間的制約がある医薬品開発において、極めて重要な役割を果たします。
ケーススタディ:パキロビッドと新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症に使用するため多くの承認済み薬剤が検討されましたが、Pfizer社の抗ウイルス薬パキロビッドは既存薬再開発の成功例です。パキロビッドは入院・死亡のリスクを89%低減する効果を示しました。
実際のところ、パキロビッドは既存薬再開発としては部分的なものです。2種類ある有効成分のもう1つのニルマトルビルは、新型コロナウイルス感染症の治療に限定してPfizer社が開発したものです。しかし、既存薬を新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の主要プロテアーゼに対する活性でスクリーニングするという戦略の下、開発されました。ニルマトルビルは主要プロテアーゼの活性を阻害し、ウイルスの複製能力を事実上無効にします。
ニルマトルビルは、当初HIVの治療薬として開発されたリトナビルと共に送達されます。リトナビルは、抗ウイルス薬を迅速に分解してしまう特定の酵素を阻害することで効果を発揮します。リトナビルを併用することで、体内のニルマトルビル濃度が上昇し、それによって治療効果が全体的に高まります。迅速な対応が何よりも重要であった新型コロナウイルスのパンデミックでは、この画期的なリトナビルの使用は大きな変化をもたらしました。効果的な治療法の開発に要する時間を短縮しただけでなく、新規のウイルスに対する治療の効力も高めました。この事例は、既存薬再開発が医薬品開発プロセスの効率を高めるだけでなく、新規開発された医薬品の効力を増強できることも示しています。
パキロビッドのケースは、新型コロナウイルスのパンデミックに対する世界規模での対応において、既存薬再開発が極めて重要な役割を果たしたことを裏付けており、今後、新たに発生する公衆衛生上の危機への対応においても重要な先例となります。
TIBCO® Spotfire®:既存薬再開発のデータ分析を担う原動力
複雑な既存薬再開発の世界では、大規模データセットをくまなくソーティングして有望な再開発候補薬を識別することは、気が遠くなる作業になり得ます。Revvity Signals Software(旧PerkinElmer Informatics)が提供するTIBCO Spotfireのような画期的なデータ分析ツールを用いれば、複雑なデータ分析を簡略化でき、迅速なプロセス処理が可能となります。
TIBCO Spotfireは、SARS-CoV-2の治療薬候補を識別する目的で、重要な既存薬再開発試験において活用されました。具体的には、TIBCO SpotfireをPOC(Percentage of Control)の計算に使用しました。POCとは、候補薬で処理したサンプルの感染レベルを、中性物質で処理したDMSO溶媒対照サンプルと比較するために用いる指標です。POCが40%未満の化合物は、対照と比較して感染レベルが有意に低く、既存薬再開発試験に適した結果であることを示します。ただし、ヒット化合物が細胞に有毒でないことを保証するために、細胞の生存率も考慮しなければなりません。そこで、POCが40%未満で生存率が80%を上回る化合物を、ヒット候補化合物として選別しました。
TIBCO Spotfireの既存薬再開発に対する効果
TIBCO Spotfireの、膨大な量のデータを扱って分析する性能を活用すれば、上記のPOC/生存率の組み合わせのような非常に特異な基準をターゲットにできるため、既存薬再開発分野で非常に有用であることは間違いありません。この事例は、SARS-CoV-2ウイルスに対抗する新しい抗ウイルス候補薬の識別を目的とした研究として、Cell Reports誌に発表されています。
この研究の目的は、約3,000の医薬品(FDA承認薬1,000種と薬らしい分子2,000種以上)で構成された再開発ライブラリをスクリーニングし、抗ウイルス特性を示す医薬品を識別することです。このプロセスにTIBCO Spotfireを活用することで、この膨大な量のデータを効率的に選別し、重要な結果を見いだせました。SARS-CoV-2ウイルスにおいては、薬剤に対する感受性とウイルスの侵入経路が細胞種全体で著しく異なり、主な違いは肺上皮細胞で観察されることを発見しました。
さらに同研究では、TIBCO Spotfireのアドバンスドアナリティクス機能・ビジュアライゼーション機能を利用して、呼吸器細胞で効果を示した9種類の抗ウイルス薬を特定しました。うち7種類はヒトへの投与歴があり、3種類はすでにFDAの承認を受けた医薬品でした。その1つ、シクロスポリンはカルシニューリンではなくシクロフィリンを標的にすることが判明しており、迅速に臨床導入できる可能性がある重要な宿主標的が明らかになりました。
このような洞察は、潜在的な抗ウイルス薬の早期発見だけでなく、SARS-CoV-2のメカニズムに関する深い理解につながります。これらの結果は、既存薬再開発の実力と、TIBCO Spotfireのビジュアライゼーション・アナリティクス機能がこのような研究活動で果たす重要な役割を示しています。
TIBCO Spotfireの機能は、既存薬再開発のさらに先を行くものです。TIBCO Spotfireを搭載したRevvityのSignals VitroVivo™は、in vitro試験を簡略化し、前臨床の開発における解析を効率化できます。Revvity Signals Softwareは、データを管理・分析するための強力なツールを提供することで、既存薬の新たな適応症の開発を促進し、最終的に患者様の転帰を改善し、ひいては命を救う一助となります。
既存薬再開発の未来
既存薬再開発が、新型コロナウイルス感染症のような世界的な公衆衛生上の危機に立ち向かう際に有望であることが示されたことから、このアプローチは将来の医薬品開発戦略において重要な役割を果たすと考えられます。既存薬の潜在力、さらにそれを支えるデータや研究を活用する能力によって、治療法の効率や費用対効果がさらに向上する可能性があります。TIBCO SpotfireやSignals VitroVivoで実現するハイスループットスクリーニング(HTS)を利用することで医薬品開発が迅速化し、新たな疾患や病態と闘うための新たなツールを医学界にもたらします。
TIBCO Spotfireなどのデータアナリティクスツールは、今後も既存薬再開発試験をスムーズに行うのに役立ち、膨大な量のデータを取捨選択し、研究者が有望な候補薬を迅速かつ効率的に識別するための手段となります。これは医学の新たな領域であり、その力を利用して、患者様にふさわしい治療に必要なツールを医療従事者に提供しなければなりません。
Revvity Signals Softwareが提供するTIBCO SpotfireやSignals VitroVivoなどの他のソリューションが、どのように既存薬再開発に役立つのかにご興味のある方は、是非お問い合わせください。詳細はこちらをご覧ください。

クリス スタンプ(Chris Stumpf)
Revvity Signals Software シニアプリンシパル マーケティング プロフェッショナルスタンプは、Revvity Signals Softwareでマーケティングプログラムを担当するシニアプリンシパル マーケティングプロフェッショナルです。分析機器・インフォマティクス業界で、医薬品・ライフサイエンスから化学物質・材料に至るまで20年を超える経験があります。Purdue Universityで分析化学・質量分析のPh.D.を取得しています。