セルペインティングによる表現型創薬
新規有効成分の登録が下り坂に向かっています。イールーム(Eroom)の法則(新しい治療薬の開発費用が増大し、発売時期も遅くなるという法則)は1980年代に提唱されて以来、ずっと続いています。
しかし、事情は変わりつつあるかもしれません。より優れた疾患の層別化、インテリジェントな実験計画、計算生物学の進歩により、イールームの法則が覆されようとしています。計算生物学とデジタル生物学には、いずれも巨額の投資がされています。表現型創薬は、従来のターゲットを基にしたスクリーニングを越える勢いを示しています。
表現型スクリーニングを加速化
セルペインティングは、細胞生物学と計算生物学を組み合わせ、治療下での細胞の挙動を理解する表現型スクリーニング法です。
いわば、蛍光バイオプローブを用いて様々な細胞コンパートメントを標識することで、細胞内の多数の表現型パラメータをプロファイリングする方法です。2013年に初めて話題となりましたが、この手法を改良して「セルペインティング」という名称が与えられたのは、2016年になってからです。セルペインティングは、化合物/薬剤/遺伝子/その他の環境要因が及ぼす影響を理解するために有用な多段階プロセスであり、これまでに以下の目的で使用されてきました。
- 新しい治療法を見いだす
- ヒトの遺伝子機能を評価する
- 環境毒性物質を評価する
セルペインティングによって、細胞レベルのメカニズムを研究する新しい機会が得られます。この方法には、動物試験の減少・治験の効率化・毒素の調査を促す可能性があります。
セルペインティングのしくみ:概要
「セルペインティング」の名称は、核・核小体・ミトコンドリア・小胞体など多数の細胞小器官を染色、すなわち「ペイント」することに由来します。ワンステップでは成し遂げられず、以下のような多くの工程を経て行われます。
- 処理と染色:細胞をマイクロプレートに入れて処理してから、細胞染色剤を加えます。プレートの量が非常に多いため、通常この工程は自動ロボットシステムで行われます。
- 画像取得:ハイコンテント光学スクリーニング装置でサンプルを解析します。
- 特徴抽出:細胞の特徴や表現型を、画像から数値に変換します。
- ダウンストリームのコンピューター解析:主に、次元圧縮法、教師なしクラスタリングなどの統計解析がよく行われます。
セルペインティング アッセイには、ハイスループットロボット・ハイスループット自動化・蛍光バイオプローブ・画像取得・画像解析・機械学習・ディープラーニングの各ツールが必要です。得られた高次元データを、PCA/t-SNE/UMAPなどのツールを用いて、類似する表現型プロファイルのクラスターをビジュアライズし、未知の化合物の作用メカニズムを提案する形で表示します。
セルペインティングの深層に迫る
セルペインティングでは、マイクロプレートに播種して化合物で処理した細胞を使用します。通常、24~96時間細胞を処理した後、統計的手法を用いて類似する表現型プロファイルをクラスター化して解析します。

セルペインティング アッセイでは、蛍光プローブで細胞を標識する必要があります。コストを下げてスループットを上げるために、市販のプローブを使用するのが一般的です。現行のセルペインティングの実験計画法では、8個の細胞小器官と構成成分を染色するために6種類の蛍光プローブを使用します。
標識した細胞の画像を、ハイスループット顕微鏡システムを用いて順番に/同時に取得します。蛍光プローブによるスペクトルのオーバーラップは、x、y、z次元での空間定位を通して解決できます。セルペインティングのプローブを変更することで、疾患状態の特性評価や、ハイコンテントスクリーニング(HCS)イメージング装置による検出をより詳細に行えます。課題は、多数の蛍光色素を扱う際に、各スペクトル特性の分離間隔が狭い点です。
セルペインティングでは、画像セグメンテーションを使用して個々の細胞固有の特性を識別し、特徴量を取得します。これらの特徴量には、細胞の形態、検出したマーカーの強度、動的特性が含まれます。その特徴量をウェルごとに平均します。特に不均一細胞集団モデルや混合共培養システムでは、この特徴量を使用することで反応した集団・サブ集団を測定できます。
画像から得たメトリクス数を、蛍光バイオマーカープローブの数とともに、細胞コンパートメントごと、サブ集団ごとに素早く展開します。標準的な表現型スクリーニングで得られる計量値は数十個ですが、セルペインティング アッセイでは最大限の画像解析による、数百~数千個の特徴量を簡単に生成できます。
セルペインティングの課題
セルペインティングによって得られる細胞の表現型に関する洞察は強力なものですが、その豊富な情報量ゆえに生じるインフォマティクス上の課題も多くあります。具体的には以下のような課題があります。
- 画像処理
セルペインティング画像の前処理には、画像の正規化・バックグラウンド補正・細胞領域分割など、いくつかのステップがあります。 - 特徴抽出
セルペインティングでは、それぞれ複数のチャネルを持つ画像が生成されるため、高次元データセットが得られます。このデータセットから意味のある特徴を抽出するのは困難な場合があり、多様な画像に対応できる堅牢なアルゴリズムが必要です。 - データ統合 セルペインティングではデータセットが複数生成されるため、ダウンストリーム解析用にこれらを統合する必要があります。多数のソースから得たデータを統合するのは困難な場合もあります。
Signals Image Artist™とSignals VitroVivo™では、画像を数値に変換してから、最終的に以下のアッセイエンドポイントに変換することで、セルペインティングのインフォマティクスに関する課題に対処できます。
Signals Image Artist
- 領域分割:調べる対象物を識別
- 絞り込み:目的とする領域を調節
- 数値化:画像から特性値を抽出
- 分類:機械学習で細胞集団の分類精度を向上
Signals VitroVivo
- 次元圧縮
- 洞察を得るための高度な統計解析と、教師なし機械学習
セルペインティングでは、人工知能や機械学習ガイダンスなどの解析ツールを使用。新しい発見を得るためにデータの理解を深め、フィンガープリント法を実施して、解釈します。是非、セルペインティングの白書、セルペインティングの詳細、Signals Image ArtistやSignals VitroVivoの機能についてご覧ください。
セルペインティングのワークフロー全体にわたるRevvity Signals ソリューション詳細についてご覧ください。

Signals Image Artistは、主要なハイコンテントスクリーニングシステムと細胞イメージングシステム全ての画像データに対応しています。ハイパフォーマンスコンピューティングと業界標準のオブジェクトストアを搭載し、スケーラブルでマルチユーザ対応の画像解析・管理ソリューションを提供。皆様のラボのニーズに合わせて拡張できます。

Signals VitroVivoを使用すれば、アッセイの開発、ロースループットからウルトラハイスループットまでの産生アッセイ、ハイコンテントスクリーニング、in vivo試験を統合し、単一プラットフォーム内にある全てのアッセイ・スクリーニングデータを横断的に検索できます。
セルペインティングデータを用いる作業は複雑です。専門家の助言が必要となる場合もあります。使用できなかったデータを実用的な洞察に変える道はここから始まります。

エドアルド ゴンザレス-コート(Eduardo Gonzalez-Couto)
Signals VitroVivo プロダクトマネージャーゴンザレス-コート博士は現在、Signals VitroVivoのコアスクリーニング機能を担当しています。以前はPerkinElmer Informaticsでトランスレーショナルメディシンのプロダクトマネージャー、バイオインフォマティクス製品のストラテジスト兼マネージャーを務めていました。さらに以前は、Integromics社のCSOを務め、GlaxoWellcome社・GeneProt社・Siena Biotech社での25年を超えるバイオインフォマティクスの実務経験があります。スイスUniversity of Genevaで生化学の学位と分子生物学の修士号を得た後、分子遺伝学のPh.D.を取得しています。